ベーカリーといえばヤマザキというブランドを。食文化の異なる国でのベトナムヤマザキの挑戦

 

企業名:Vietnam Yamazaki Co., Ltd

業務内容:ベーカリー事業

利用サービス:kintone on cybozu.com

利用用途:売上、販売数管理


※General Director 鈴木円氏(左)と伊藤傑氏

海外店舗の規模としては日本最大を誇る山崎製パン株式会社(以下、山崎製パン)は、日本のベーカリー事業を営む会社の中で、海外展開の規模は抜きんでている。 1981年、三越香港でのベーカリー事業開始をきっかけに、今や世界10の国と地域に、15法人270以上の店舗を構えるまでに海外事業を成長させてきた。 今回は、新たな拠点としてスタートを切ったVietnam Yamazaki Co., Ltd(以下ベトナムヤマザキ)の開店から現在に至るまでのチャレンジについてGeneral Director 鈴木円氏と店長の伊藤傑氏に話を聞いた。

百貨店の海外進出に合わせ、山崎製パンの海外展開が始まった。

工場で袋詰めされたパンを売るのではなく、店舗内にパンを焼く設備を持つことで、顧客へ焼き立てパンを提供する「ベーカリー事業」。この事業を開始したのが35年前。 もともとは、国内で製パンと卸売を中心に事業展開をしてきた山崎製パンのベーカリー事業への参入は早くはなかった。

 

1980年代、日系百貨店が続々と海外に店舗を構えていった。その百貨店から、店舗内でパンの製造と販売をする、いわゆるフレッシュベーカリーの店舗を開かないか?という誘いがかかったことが、海外展開のきっかけだ。 最初の店舗は、1981年に出店した香港の三越。それをきかっけに海外へ事業所を設立し、いまや270以上の店舗を構えるまでに成長した。

 

ベトナム店舗設立のために、2015年の春から鈴木氏を含めたメンバーで市場調査を行い、2016年の7月、高島屋の店舗出店に合わせてフレッシュベーカリーの店舗営業を開始。 「ミイラ取りがミイラになる話は良くありますので、そのまま赴任でした。」と鈴木氏は笑う。


パン食文化の根付いていないベトナムでの挑戦

日本では食事時にパンを主食として食べることは一般的なことだ。朝ごはんに食パンを、昼食はコンビニで買った菓子パンを、といった食生活に大きな違和感はないだろう。 一方、ベトナムにおいてはまだパン食の文化が根付いていない。 野菜などの具材が入ったバインミーを食べることはあっても、食パンや菓子パンのようなパンは、ベトナム人にとっては食事としてとらえられておらず、スナック的な扱い、いわゆるおやつ替わりと認識されているのだ。

 

よって、日本と同じ感覚でパンを販売することはできない。しかし、取材で訪れた店舗には、たくさんのベトナム人が来店し、嬉しそうにパンを購入していた。

※ベトナムでは珍しい試食も好評だ。


パン食文化が根付いていない、いわばベーカリー事業社にとっては逆境ともいえるこの環境で、これまで顧客を集めたのにはいくつかの工夫がある。

一つが焼き立てパンの提供だ。 ベトナムのヤマザキパンの店舗前では、店で買った焼き立てのパンを、店の間の前でほおばる光景が日常的に見られる。

「あつあつの焼き立てに群がって、こうその場でちぎって食べるわけですよね、それはもう美味しいですよね、一番おいしい食べ方。ベーカリーは焼き立てが命ですから、それを目当てに、お客さんが来てくれるんです。」(鈴木氏)

 

※パンのスライスは売り場で実演している。

 

焼き立てのパンを提供することの他に、スライスした試食の提供も人気だ。

 「こっちの人ってパンをスライスして食べるっていう文化があんまりないので、もうそれ自体がまず楽しいし新しい発見だし、うちだけがやっている強みですね。」(鈴木氏)


日本においては、試食が配られることも、大きなパンをスライスして食べることもごく一般的なことになっているため、パンを試食で配っても、大きな反応は無い。しかし、ベーカリー事業を営む店舗がまだ少なく、パン食の文化が根付いていないベトナムでは、スライスしたパンを試食として配ると、それが驚きや楽しさに変わり、またあのお店に行きたい!というモチベーションも生まれる。


『売れない』と言われていたパンを200個売り切るヤマザキベトナム

また販売しているパンの種類にも工夫を施している。

 

例えば串に小さなパンを刺し「団子」という名前で販売をしている。他にも「どら焼き」など和菓子のような名前のものも並んでいる。 こういった商品のネーミングの一部は、現地のメンバーに考えてもらっているそうだ。 日本人の感覚では、団子やどら焼きは和菓子屋で買うものであって、パン屋で買うものではないかもしれない。ただし、日本の百貨店と違い、ベトナムの百貨店には、和菓子専門店は無い。

 

※パンを串に刺した団子パン


「日本の百貨店さんのデパ地下でやったら、やっぱり笑われますよね。和菓子専門店があるから、『こんないい加減な団子出さないでよ』って。でも別に海外の場合だと、なんでもありなのです。お客さんが喜んでくれれば。」(鈴木氏)

 親日のベトナム人にとって、漫画やアニメで見た日本の食べ物が並んでいると、興味を引くのだろう。 子供がベトナム語で「お母さん、どら焼き買って!」とねだる姿も時折見られるという。

 日本での考え方を一度捨て、ベトナムという土地の感覚で、何が喜びや驚きになるのかを考えてみるこことで、新しい発想が生まれるのだろう。 ベトナムヤマザキのチャレンジの例として、現地の人から「売れないよ」と言われていたあんこ入りの商品やカレーパンの販売もある。

※どら焼きも人気商品のひとつ

 

実はベトナム人にとって、あんこは馴染みのない食べ物。実際に現地の人々にどら焼きを食べてもらったところ「甘すぎ」とあまり好評ではなかったという。 しかし今では、どら焼きは毎日200個近くを売る超人気商品。あんぱんについても1日あたり80個以上売れる人気商品に成長した。


「『いろいろすごいけど、何がすごいってあのどら焼きを、初めてホーチミンで売ったのがすごい』って、変な褒められ方をされたくらい、ちょっとインパクトがありましたね。」(鈴木氏)

 

同じく、日本ではおなじみのカレーパンも、事前に売れないと言われていた。日本風のカレーは、ベトナムローカルの人々には受け入れられない。それは承知しながらも、パン屋としてカレーパンは売りたかった。迷ったが、あくまで日本人のお客さんのためにやろうと決め、1日30~40個が販売できる量のカレーを店舗でいちから仕込み、カレーパンの販売を始めた。

 

すると、予想に反し、ローカルのベトナム人が買っていき、当初予定していた販売数を今では大幅に上回っている。 一時は販売数が追い付かず、店舗を訪れてもカレーパンが売り切れていることから「幻のカレーパン」という異名すらついたこともあるという。

※在庫切れが続き

「幻」と言われたほどの人気を誇るカレーパン

 


固定観念にとらわれないチャレンジを繰り返し、売れないと言われていた商品を何十から何百個も販売し、いまや店舗に訪れる8割がベトナム人。あらゆる工夫で地元から愛される店舗となった。 もちろん、故郷の味を懐かしむ駐在を中心とした日本人の顧客も多く、「いつもありがとうございます」と言われるほどに感謝されているという。 ベトナムヤマザキは、高島屋の飲食コーナーの賑わいの中心となっていた。

販売数確認の手間とミスを減らしたい

店舗立ち上げから数か月の間は、店舗の運営に追われ寝る暇もなかったという鈴木氏。 生産と販売を回すのに精いっぱいな中、正確に販売個数を把握して管理しなければいけないことは認識しつつも、POSレジがあれば十分で、データ管理のためのシステムが必要だとは思っていなかったという。

 「一店舗ですから、システムまでは必要ないと思っていました。POSレジがあれば何とかなるだろうなと。」(鈴木氏)

1日何がいくつ販売できたのかを、ボタン一つで可視化

kintone導入前はどのように管理していたのだろうか。

 

「作った数から、製造時に失敗してしまった数と、試食に出したもの、売れ残ったものを引いて、販売されたであろう数を出す。それをもう毎日手入力でやっていたのですが、やっぱり手間でした。」(伊藤氏)

 

カウントは目で売れ残った数を数えて、販売メンバーが紙に手書きで記入していた。 手入力のため読み間違えなどもあり、販売個数が正確に本社に伝えられなかったり、開店当初は店舗運営で手一杯になり、報告にタイムラグが発生してしまうこともあったという。

 

「真っ暗闇の海の中で、どっちに向かって走るのかを決めているような感覚でした。ただkintoneを使うことで、それこそ思ってた通りボタン一つで、昨日のアイテムが何が何個売れたか全部わかる。昨日は何がいくつ売れたのか、先週はどうなのか、という一番知りたい販売数字がすぐに見えるようになったのは、大きなことでした。」(伊藤氏)

 

※製品ごとの販売状況が一目で把握できる。

 

また、販売個数が分かることで、レジの打ち間違いにも気づきやすくなった。データが見えるようになれば、スタッフの業務へのフィードバックやアドバイスがしやすくなるのだ。

今後の展望について

最後に、今後のベトナムヤマザキの展望を聞いた。

 

「ホーチミンのお店が開店したときに、あるお客さんが『やっとヤマザキが食べられる』と言ったんですね。よく聞いたら、香港で生まれて、小さいときからヤマザキを食べていた、と言うんです。それを聞いて、会社の自画自賛じゃないけれど、海外事業を35年もやっているからこその歴史を感じたんです。だから僕自身は、ベトナムでベーカリーといえばヤマザキだよね、という認知を作りたいですね。」(鈴木氏)

 

店舗や商品への様々な工夫により、パンになじみの薄かったベトナムに新たな食文化をもたらしているベトナムヤマザキ。ホーチミンから始まった彼らのチャレンジにより、熱々のパンを嬉しそうに頬張るベトナムの人々が、今後も増えていくことだろう。